導入のきっかけについて
きっかけという言葉が不要なくらい、事務所組織の規模に関係なくいろんな組織が手にしている日本を代表する構造計算ツールだと思います。ユニオンシステムの行っている設計コードのプログラム化は、賛否両論あるとは思いますが、間違いなく日本の構造設計者における仕事のモノサシとなっており、構造設計の実践方法の裾野を拡げていると思います。
私自身が事務所設立前はMIDAS ITにおいて、『midas Gen』の設計機能の日本仕様の企画開発(『midas iGen』、『midas eGen』)を行っており、日本の構造解析業界の巨人である『SS3』のsolver、Pre、Postの各機能について、徹底的に分解、分析を行っていた当時からユニオンシステムのプログラム処理はよくできているな。と思っていました。特に非線形解析の処理時間の短さは、『midas Gen』のsolver担当チームも「なんでこんなに早いの?!」と舌を巻くほどであり、それが『SS7』になって4並進になり、コンピューターの能力の活かし方が、市販ソフトとしてはNo.1だと思います。構造設計の仕事の裾野という話で言うと、『SS7』というある意味完成度が高い便利なプログラムは、構造設計者の立ち位置を二極化していると感じています。それは構造設計の先達方が言っていた言葉を借りるまでもなく、「プログラムを使う人」と「プログラムに使われる人」に分かれると思います。そのどちらがいいとかという話ではなく、それぐらい構造設計者のスタイルに影響を与えるツールだと思っています。私自身も日々助けられており、断面算定から保有水平耐力の検討までの構造設計における最も煩わしいとも言える構造計算を伴うスタディをパラメトリックにある意味代行してくれることで、「何を作るべきか?」や「どのように作るか?」という答えのないテーマに時間を費やすことができているため、手放せないツールであります。
(安藤 耕作 氏)
具体的な使用例について
ここからは、具体的な使用例について挙げます。大阪市中央区に計画した19階建てのオフィスビルについてです。クライアントは私の友人の不動産開発者で、東証マザーズに上場したばかりのころで、技術に裏打ちされた新しい開発を実践する中で狭小な敷地に、天空率が最大となる五角形平面のオフィスビルを最初期はPCa+PCで計画しました。
規模的に、性能評価となるので、最終的に時刻歴応答解析までを見据えて、データ連動の観点からユニオンシステムの『SS7』から基礎関係のツール(『BF1』など)、告示波の作成から応答解析まで一貫して利用しました。この建物が私たちの事務所で『SS3』から『SS7』に切り替えた最初のプロジェクトで、五角形というシンプルに『SS3』でモデリングをしづらい平面をPre機能が格段に性能向上した『SS7』を用いて、まずはスケルトンを取り出しました。今回の設計のポイントになるのは、プレストレスの耐力評価となりますが、梁の耐力はRCよりパラメーターが少し多いくらいなので、特段問題はないのですが、柱に関しては、自分たちで描いた柱のMN相関曲線と『SS3』と連動する株式会社構建設計事務所開発の『PC2011PCa』を要素利用して、スケルトンを取り出すために利用しました。その後、まずは比較のために各層1質点の串団子モデルを用いて、予備応答解析を行いオーダーの確認をして、部材の設計にフィードバックした後、
『3D・DynamicPRO』を用いて、解析評価をしている最中に「建物を一棟で買いたい」という事業的にはありがたい企業が現れて、「つきましては規模は10階建てくらいで十分なんです」となり、その後はその企業がSteelに付帯する建築資材を販売する会社であったため、構造はSteelとなり、10階建てを設計するというまさかの流れとなりました。
2回目の設計の方は一般的なSteel構造の保有耐力評価なので、それはそれで『SS7』を用いてそつなく実践したのですが、この狭小地においてPC造で超高層を企画することによって、得られた教訓は当初想定していた以上であり、技術と想いを価値のコアにおいて、設計の代表という立場で参画するというフィールドに上がれたことが、今の会社名の一部であるImagineering(ImaginationとEngineeringを足し合わせた造語)の出発点となったという意味では、思い出深いプロジェクトです。ユニオンシステムの具体的な使用例ではないですが。(安藤 耕作 氏)
プログラムの品質について
前述したとおり、いろいろと分析し尽くして、設計の実践で使って感じるのは、「特に品質に対する不満はない。」というものです。むしろユニオンシステムの解析処理のアウトプットが構造設計業界と建築確認業界(そんな業界あるか?)のスタンダードになっているように思います。そのため、感じるのは「アウトプットボリュームが多いな。」というものです。最近は、電子申請が増えており、以前のようなやった感のかたまりの紙の束を持ち込むような必要性が減ってはいるものの、過渡期であり、当面は存在感があります。紙媒体への自動出力のポスト処理機能が開発上、最も大変なのは理解しているつもりではありますが、出力内容はリストで済むような内容もあるので、そのあたりのカスタマイズができるとよりいいように思います。
プログラムの開発企画を担当していた経験から言うと、プログラムの十分条件は、モデル化された内容の解析処理を正しく行うことであり、その点においては、数値が追いやすい『SS7』の品質は素晴らしいと思います。次に、解析内容の便利なアウトプット(Post)機能の話があると思いますが、それは設計者が如何ようにでも補足すればいいいわけなので、最低限のアウトプットとしては満足度が高いと思います。入力(Pre)機能も『SS7』になってからだいぶ改善されたと感じています。
ユニオンシステムのプログラム更新のスピードとその責任感は、素晴らしいと思います。しばらく『SS7』を使う機会がなくて、久しぶりに立ち上げて、バージョンアップが成されていると、「おーそんなに使っていなかったか」と思うと同時に、「更新がしっかりなされているなぁ。」と感じます。
もう1つ思うのは、ユーザーマニュアルの解説書“計算編”のまとまり具合です。代表的な評価式の場合、わざわざAIJ、BCJの指針をいきなり開くより、解説書の方が網羅的にまとまっているため、「大きい内容は解説書を読んで、それを目次として詳細な内容は各指針を読み込んで理解する。」みたいなことを半人前のころにはよくやっていたと記憶しています。そのくらい解説書はよくまとまっていると思います。(安藤 耕作 氏)
その他、ユニオンシステムに対するご意見、ご感想があれば教えてください
導入に際してのコストでしょうか。というのは冗談で、特にはないですね。
もちろん、CADのようにCAE(コンピューターを用いたエンジニアリング)が成されれば言うことはないですが、その部分はある意味で慣れもあるので、そのことで設計活動が飛躍的に効率化することはないと個人的には思います。その設計フェーズに応じた検討方法があるのは当然なので、『SS7』はその最終盤に登場する真打ちのようなものなので、『SS7』に今後期待するのは、最初期のまだ仕事になるかならないかのフェーズの、建築の専門ではないクライアントへのプレゼン効率を上げるような支援機能、もしくは、ビルディングに特化したようなボリュームのみを指示すると最適構造解が立ち現れるような、AIとリンクした機能のようなものがあるといいかもしれません。ですが、そんなものがもしできたら、構造設計者の仕事がますます無くなるので、骨抜きや淘汰どころか構造設計者の存在自体が危ういとは思いますが、近い将来には、誰かがそれをやるわけなので、それをできる可能性を秘めているユニオンシステムの『SS7』は、日本を代表する構造計算ツールだと思いますし、優秀なプログラムが構造設計者の活躍の裾野を拡げていると感じています。(安藤 耕作 氏)