この計画は29階建て、高さ110mのCFT造の集合住宅です。制振部材として粘性制震壁(VDW)と制振間柱を配置したハイブリッドの制振構造として計画しました。
構造計画概要
柱はCFT造、梁はS造とし基本グリッドは8~9m×7~11mです。構造形式は純ラーメン構造で、制振部材として基準階の共用部に粘性制震壁と一部住戸境壁内に鉄骨制振間柱を配置し、風や地震によるエネルギーを吸収して、居住性・耐震性を向上させる計画としています。
解析モデルとソフト
解析モデルは1200節点を超える大規模な建物のため、簡略モデルから詳細モデルと設計フェーズに合わせて使い分けました。静的解析は弾性・弾塑性とも入力・解析・出力といずれもインターフェイスの良い『SS7』とし、時刻歴応答解析は質点系モデル『DynamicPRO』と部材レベル立体解析モデル『3D・DynamicPRO』を使用しました。
質点系モデルの柱梁ラーメン部分は『Dynamic復元力特性モデラ』を使用すると『SS7』から精度よくモデル化できるのですが、制振部材については工夫が必要です。特に本建物のように、建築計画から制振部材が建物の外端フレームに取り付いたり、スパンの中央ではなく偏在して取り付いたりする場合は、各種マニュアルや論文等でモデル化の提案がされていますが、建物ごとの特性を考慮することが必要です。
『3D・DynamicPRO』はこれらのモデル化を実際の位置に考慮できます。もちろんモデル化ですから、柱梁のみならず制振部材もある仮定でモデル化されている訳ですが、それらの影響を確認できることのメリットは大きいです。
ということから設計では、質点系モデルでの振動性状を把握し、『3D・DynamicPRO』で制振部材の影響を詳細に確認しました。
『3D・DynamicPRO』のハンドリング
一昔前まで動的部材レベル立体解析モデルは、それはそれは大変なことで、天文学的な時間をかけてモデル化しスパコンを借りて計算するイメージでしたが、『3D・DynamicPRO』は『SS7』からほぼワンクリックでモデル作成、解析は市販のパソコンでそれもマルチスレッドで10地震波同時計算と、計算時にコーヒーブレイクも取れない速さです。扱いに慣れてくると質点系モデルを作るより早く部材モデルができます。
設計の道具として
動的に部材レベルの立体解析がこんなに簡単にまた入力ミス等がほとんどなくできるようになったのは、設計の道具として大変心強いです。性能評価委員会の帰り道、質疑回答の解析モデルを考えながら歩いて反対側の電車に乗ってしまうことがなくなりました(笑)。
しかしあくまでも道具。柱梁の復元力特性を計算している『SS7』がどういう仮定で計算しているか、制振部材はどんな根拠でモデル化しているかなど、他の部分も紐解いたうえで、使う必要があると思います。また部材レベルの膨大な計算結果をどう料理するか、設計者の腕が試されます。
また地震のことはわからないので、設計者が少しでもコントロールできる建物側をより明快に、できれば単純にすることで、計算ソフトが設計の道具として生きてくると思います。時に詳細な計算をすればするほど複雑なことが解明できると思われていますが、そもそもわからない地震等を相手にしている以上、あまり意味のない計算だと思います。
最後に、最近『3D・DynamicPRO』は中間免震も対応できるようになり、解析精度・スピードからも設計者の創意工夫に大きく貢献できる道具と思います。