本建物は、滋賀県に建設する鉄骨造2階建ての工場です。平面形状はX方向=60m×Y方向=32mの長方形です。
各階階高は1階=5.60m、2階=3.90mです。生産設備の整備工場となるため、1階床はクリーンルームの設置およびフォークリフト車両走行に対応した建物です。屋根は折版、2階床は合成デッキスラブ床版です。
構造計画概要
1階はクリーンエリア、2階は執務室エリアを配置した平面計画としており「無柱空間となる広い空間を極力確保してほしい」とのお客様の要望により、コストバランス・工期短縮も踏まえ、架構形式は柱スパンをX方向 5.0~6.4m Y方向 6.0~9.7m としつつ、格子梁で架構を形成して柱本数を間引く計画としました。また、両方向共ブレース構造として水平力に抵抗する架構とし、長期応力の負担により強軸・弱軸の向きを使い分けたH形鋼で計画しています。
梁はH形鋼とし、梁せいは最大で800mmを採用し、床梁の撓み(変形)を抑えると共に、過度な振動を防いでいます。また、梁継手位置を柱芯より 800 mm を基本とし、施工時の鉄骨運搬を考慮しました。ただし、ブレース取付部は、1200 mm とし、梁端溶接部・ブレースG.PLの取り合いに配慮した計画としました。
基礎は柱状改良による地盤改良を施した直接基礎です。基礎梁を無くし、設備配管ルートに汎用性を持たせると共に、施工時の重機走行ルートを確保した架構計画としました。また、建物の2階レベルには出長さ4.6mの片持ち床(外部設備置場)を有しており、目隠し壁全面にブレースを配置し、鉛直変形を抑制した架構を計画しました。
『SS7』利用方法
架構全体をブレース架構として水平力に抵抗する計画としているため、ブレース断面の長期応力負担の有無に応じて、断面を決定することが必要と考えました。ブレースの長期応力負担の有無は、計算条件により指定が行えるため、柱梁架構のみで応力を負担するケース・長期荷重時にブレースが寄与するケース・片持ち支持するブレースのみ長期応力を負担するケースなど、種々のケーススタディを行うことで、架構の断面サイズ決定に至りました。また、ブレース付大梁は、軸力を考慮して断面検定が行えるため、容易に梁の断面サイズ決定をすることができました。
床面の剛性評価は、屋根面は全体非剛床節点として水平ブレース剛性を直接評価し、水平ブレースの負担軸力を確認することができるため、最適な屋根面ブレース配置を計画することができました。2階床面は合成デッキスラブを剛床仮定とみなす場合と床面をブレース置換して非剛床とする場合の2ケースを検討し、架構の水平力負担割合の差やブレース付大梁の軸力負担の影響などを確認することができました。
別途検討項目
横補剛間隔の入力では、小梁配置によっており、座屈止めなどを直接入力した補剛位置は煩雑となりますが、架構モデル図上で補剛位置を表示させることができるため、データ入力後に目視で確認することができました。
また、応力図の表示では3Dおよび平面表示も対応しているため、水平ブレース応力の確認や梁ヒンジ発生の有無などの確認もスムーズでした。
確認審査時の指摘事項や対処方法
ブレース付大梁は軸力を負担するため、柱端の接合部検討(ピン接合部)を検討するようにご指摘をいただきました。架構の解析結果出力において、部材符号毎の応力一覧表により最大応力を拾うことができ、検討に必要な数値も迅速に確認することができました。
まとめ
『SS7』の計算機能の充実・モデル表示や架構を可視化する機能の充実により、手計算による煩雑性が解消され、図面整合確認もスムーズに行えていると実感しています。また、小梁入力に応じて断面検討も行うことが可能であり、これまでは電算入力後に個別検討でサイズなどを確認し、電算モデルへ再反映するといった手間が生じていましたが、初期入力段階でもある程度の断面を容易に想定することができ、ユーザー作業の省力化ができていることも感じています。モデル入力上でも、梁レベルなどを細かく入力することが可能で、梁段差部の取り合いも目視で確認することができ、CADで図面化する際にも一助となっています。『SS7』は汎用性が高く、ユーザーのニーズを捉えた機能が多数搭載されており、非常に有益なソフトであると思います。