(東京都)
本物件は、S造5階建ての工場で内部に立体倉庫を2機有する建物です。
特に4階は階高が8.5mと非常に高く、階の中間に設備架台を設ける仕様となっていました。建屋内に設備機器を配置する部分および立体倉庫部分が吹き抜け空間となり、剛床仮定が成り立たない箇所が数多く存在しました。
構造計画概要
将来、ライン変更により外壁開口の変更も考えられたため、ブレース構造ではなく純ラーメン構造で計画しました。また、特に注意を払って設計した項目を以下に示します。
① 地盤調査の結果、孔内水位が非常に高かったことから根伐り深さをできる限り浅く計画しました。
② 意匠計画上、床の無い部分で折版屋根のケラバ部分と外壁が取り合うところがあり、止水の観点から鉄骨の梁側面にRCの腰壁を設けました。
③ 吹き抜け、床開口が多く、開口周辺の梁に間柱が取り付く場合と取り付かない場合が有るため、剛床仮定の設定を変え応力状態を確認しました。
④ 構造関係技術基準解説書に掲載されているAiの精算法、モーダルアナリシスにより求めたAiと告示式のAiを比較検討しました。
⑤ 食品工場という用途上、生産機器および設備関連のダクトが多かったため、構造部材との干渉チェックに、BIMの活用を試みました。
『SS7』利用方法
構造計画概要で触れた項目の『SS7』上の設計手法をまとめました。
① 通常であれば柱下に杭を配置しますが、立体倉庫の設置上、地中梁を配置してしまうと地中梁底が深くなりすぎ、水位以下になってしまいました。そこで、保有耐力の検証を行い、柱を配置せずとも保有水平耐力を満足するように設計をし直しました。モデル入力が簡単なため、こういったケーススタディもスムーズに行うことができました。
② 鉄骨の梁にRC腰壁がとりついてしまうため、RC腰壁分の剛性をどう評価するか悩みましたが、端部の納まり等を考慮すると、RC腰壁の剛性を評価する場合と評価しない場合、両ケース共、問題ないように設計することとしました。剛性評価の手法が、豊富なので実状に近い形で入力することができました。
③ 剛床仮定の解除の方法が、鉛直、水平と選べることから、鉛直支持部材がある場合、鉛直は剛床、鉛直支持部材が無い場合、鉛直は剛床解除とし設計を行いました。鉛直支持部材を配置した箇所は杭を配置することとしました。剛床仮定の設定の仕方でコストに大きく影響する建物だったので、細かい設定ができ助かりました。
④ 告示式でAi分布を求めた場合、最上階は大きく中間階は小さくなる傾向があることから、精算法でAi分布を算出し経済設計ができないかシミュレーションしました。モーダルアナリシスを行うには、固有周期、刺激係数の算出が必要になりますが、『SS7』と『DynamicPRO』の連携がよく簡便なため、このように比較的手間のかかる検討も短時間で行うことができました。
⑤ 従来どおりの2次元の図面を起こし配管の干渉チェックも同時に行いましたが、より効率化を図るため、BIMを活用しました。
『SS7』のデータを『SS7 ST-Bridge変換プログラム』を活用することでSTBファイルに変換できるので、その他BIMソフトとの連携がスムーズに行え、干渉チェックに大いに役立てることができました。
まとめ
本節では触れませんでしたが、従属層を使い設備架台(メザニン)を層として入力することで、設備機器の重量を正確に反映させることもできました。
今回の建物のように吹き抜けが多く、剛床仮定の設定によって計算結果が大きく変わり、設備荷重を位置、荷重とも正確に入力する必要がある建物の解析には『SS7』はとても有用でした。
また、振動系のソフトと連携が取りやすいので、Aiの精算が比較的簡便にでき、色々な外力分布で検討することができました。
最後に、これからは『SS7』のモデルを元にBIMモデルを作りさまざまな検討に役立ていきたいと考えています。