地下1階地上12階建て、RC+SRC+S+W造による立面、平面混構造のテナントビルである。この計画の最大特徴は、地上12層のうち、上部4層を木造として計画を行い、地上40mより上空で、開放的な木造、木質空間が広がることにある。
構造計画概要
建物高さ58mに対して、短辺方向7.5mと塔状比7を超える。地上階は、座屈拘束ブレースを建物正面、背面に配した高剛性のブレース付ラーメン構造とし、その上部に木造ラーメン架構を載せる計画としている。鉄骨柱はB1階レベルから据え付け、B1階をSRC架構とすることで、短辺方向地震時に作用する軸力を基礎まで伝達する構成である。
木造部は一部鉄骨方杖を挿入した、鋼板挿入型ドリフトピン接合による接合部を採用し、作用する外力に対して抵抗するラーメン構造を実現した。このことにより地上45mにて、開放的な木造空間をもたらしている。建物奥側1スパンは上部に鉄骨工作物が据えられ、エレベーターコアや片持ち外部階段を有するため、最上階まで鉄骨フレームを延伸させている。なお、木造ラーメン架構は、当該階の地震力を35%程度負担している。
『SS7』利用方法
本計画のテーマのひとつとして、市井の構造設計者が、やる気さえあれば実現可能な構造設計手法で実現する、ということを上げていた。そのため、既製の木造剛ジョイント工法や、個別のプログラムを用いることなく、また、敷地条件から60m以下の建物高さであることから、保有水平耐力計算(付加制振含む)を念頭に置いて、評定、評価によらずに実現できる手法によりたいとの考えがあった。
設計を開始した2020年時点で、木造架構を組み込んだS、RC、SRC対応一貫構造計算ソフトがなかったことから、もっとも試行錯誤を行ったのは、木造部分を市販プログラムでのモデル化、建物崩壊モデルの定義であった。
『SS7』での解析モデルの構築しやすさ、入出力、また付加制振デバイスの効果確認のための弾塑性時刻歴応答解析などへの高次検討モデルへスムースに対応可能であることから、『SS7』をメインプログラムとして採用したのは必然であった。
木造架構部は、木断面とおなじ充実断面であるRC部材としてモデル化し、採用木質材料のヤング係数、強度、断面形状を別途入力1)、さらに別途算出した部材端部弾性剛性、耐力2)を反映し応力解析を行った。RC部材に対する一次設計は、『SS7』応力解析結果から、応力を抽出し断面算定を行っている。二次設計については、木造部材耐力、接合部耐力は終局強度でなく、降伏耐力を採用し弾塑性解析を行った。これは参考文献2)等により、当該接合形式の終局状態を鑑みるに、実験によらない終局耐力の採用は困難である、との判断による。
別途検討項目
S-Wジョイント、W-Wジョイント、W部材ならびに接合部断面算定などは各設計時応力に対して、それぞれ抽出し計算表等で安全性を確認している。また、木造架構部スラブはRC在来スラブを採用しているため、シアキーとして木造梁天端にラグスクリューを打ち込んでいる。それら接合部の耐力も別途手計算にて安全性を確認している。
確認検査時の指摘事項や対処方法
上述の木造部応力解析モデルについては、審査の現場でポピュラーである『SS7』ということもあり、比較的にスムースに合意を形成し進めることができた。一方で保有水平耐力時の定義については、議論が分かれた。最終的に接合部の終局状態の定義が困難であることから、保有水平耐力時層間変形角1/100以下、かつ、その際木造階初層柱脚の降伏ヒンジ発生までを許容する。というものとした。
参考文献
1)中層木造建築(ラーメン構造等)の構造設計演習帳
(大橋好光他著 一社 日本建築センター編)
2)中大規模木造建築物の構造設計の手引き(稲山正弘著 彰国社)
メディア掲載
・鉄構技術2022年7月号P.60~61
・新建築2022年2月別冊 都市(まち)に森をつくるⅢ 木造都市を目指して